【トレイい話】機関車に届けられた花束

上野発2016年3月19日、札幌発3月20日。
この日をもって寝台特急カシオペア号は引退します。

それに先立ち、一足早く引退を迎えたものがあります。

青い電気機関車のEF510です。カシオペアは、機関車が客車を引っ張って走る昔ながらのタイプの列車なので、機関車がないと走ることはできません。

EF510は、北斗星やカシオペアを引っ張るために作られた機関車で、501号機から515号機まで、全部で15両がつくられました。

今、カシオペアの牽引のために残されているのは、銀色の塗装が施されているカシオペア色の509号機と510号機、それに、青い北斗星色の514号機です。カシオペアが引退するということは、それを引っ張る機関車もそれに合わせて役目を終えるということで、役目を終えた電気機関車は、北陸地方で貨物を引っ張る機関車として第2の人生を歩みます。

しかし、その姿は寝台特急を引っ張っている時と、若干異なります。

ボディーから、寝台特急を引っ張っていた証である、流れ星のマークが消えてしまいます。そして、1月28日に上野に到着するカシオペアが青い機関車514号機にとって最後のカシオペアとなりました。

ホームには514号機の最後を知った鉄道ファンがカメラを構え、駅員さんたちもいつもより多くホームに立ち、機関車を出迎えていたように思います。

ホームに滑り込んできた機関車は、「ポッ」、「ポッ」、と短く優しい汽笛を鳴らしながら、駅員さんたちの前を通り過ぎて行きました。

その汽笛はまるで「ただいま」と言っているように聞こえました。

運転士さんが機関車の気持ちを汲んで鳴らしたんだと思います。

運転士さんも、514号機にとって今日が最後のカシオペアだとわかっていたのでしょう。
最後の運転士さんが、この人で良かったと思いました。自己満足ではありますが、カシオペアを出迎えに行く前に、お花を買いました。
機関車に贈るための花です。

機関車のイメージに合わせて、「青い花の中に黄色い花を入れてください。」とお願いしました。

青い機関車に黄色い星。

貨物を引っ張るようになると消されてしまう黄色い流れ星。
たとえ消されてしまっても、その栄光がいつまでも機関車の心に残るようにと……。
機関車をイメージして選んだ花。

「相手のことを思って花を買うことが、こんなにも楽しいことなのか……」。この時、初めて知りました。

ちなみに買った花は、紫色のスイートピーと黄色い一輪の黄色いガーベラです。

上野駅でカシオペアを出迎えた後、機関車の近くにいた駅員さんに恐る恐る声をかけました。

「この機関車が今日で最後だと聞きました。最後に花を渡ししたくて。私でなくても、代わりに渡していただくだけでも構いません」と伝えると、駅員さんが運転席の窓を叩いて運転士さんを呼んでくれました。

僕にとってEF510の青い機関車というのは、北斗星の時から、何度、本当に何度も見送ってきた機関車で、「色々お世話になった機関車なので」と伝えて花束を渡しました。お客さんを降ろしたカシオペアは、15分ほどで尾久の車両基地へと回送されていきます。

いよいよ上野駅を去る最後の時がやって来ました。

ホームの端はカメラマンでいっぱいだったので、邪魔にならないように、ホームの真ん中で再びスケッチブックを持って、見送りの準備をしました。

カシオペアの客車が、5号車……4号車……3号車……とカウントダウンされていき、そして、目の前を機関車が通り過ぎた時、一生懸命に手を振りました。
それに運転士さんも気づいてくれて手を振り返し、最後に「ピーィ」と長い汽笛を鳴らして行ってくれました。

それが青い機関車にとって、上野駅に響いた最後の汽笛となったことは、僕と運転士さんしか知らないことかもしれません……。

上野駅の13番線を右にカーブして出て行く、最後の瞬間まで、瞳から溢れそうになる涙をグッとこらえて、手を振り続けました。

歴史はいきなり幕を閉じるものだと思っていましたが、こうして少しずつ失っていくものなのかもしれませんね。
カシオペア引退まで、2ヵ月弱。

ちなみに、スイートピーの花言葉は、「優しい思い出」「門出」。
ガーベラの花言葉は、「希望」「常に前進」です。

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