【中国撮り鉄奇行④】南票鉱務局の絶景ホテル

私が南票鉱務局に行く時、必ず泊まるホテルがありました。

『興和酒店』という名前のホテルなのですが、必ず泊まる理由は、そのホテルは窓からの見晴らしが実にすばらしかったからです。

何しろ窓を開けると池を挟んで真正面に線路が見えるのです。

02そこを上游型蒸気機関車が貨物を牽いて、行ったり来たりします。

しかもそれは、夜になっても続くのです。

 

鉱務局は基本的に3交代制で、炭鉱そのものは24時間フル稼働で営業していますから、列車も運ぶ貨物があれば、いつでもやってきます。

しかもホテルの部屋の窓を開けると、線路が真正面のため、撮り鉄のポイントとしても最高のロケーションでした。

 

中国において、炭鉱の専用線はほとんどの場合、ダイヤが決まっておらず、外での撮影は忍耐力の強さが必要となります。

何しろいつ来るかわからない、それどころか朝から晩まで一日待っても一本も来ないこともあるリスクを背負った上で、冬場はマイナス20度とか、満足にカメラが動かなくなるような過酷な寒さの中で耐えなければならないのです。

 

ところが、ホテルの部屋は暖房がガンガンに効いています。

そのため、ぬくぬくと暖かい布団に入ってテレビを見ながら、蒸気機関車がやってくるのを待っていればいいのです。

こんな楽チンな環境は他に類を見ません。

あんなイカしたホテルは、もう世界中を探しても、どこにもないでしょう。

 

一つだけ難点があるとすれば、一晩中寝られないことでした。

 

炭鉱は24時間営業であるため、日が落ちて真っ暗になった後も、蒸気機関車はやってきます。

それは深夜になっても続くのです。

 

布団に入ってウトウトしていると、遠くから汽笛が聞こえてきます。

そしてシュッ!シュッ!シュッ!シュッ!と、機関車が吐き出す蒸気の音が、次第にこちらに近づいてくるのです。

 

いきなり窓を開けると冷蔵庫のような空気が入ってきますので、用心しなくてはなりません。

防寒対策をしっかりした後、ゆっくりと窓を開けるべきなのでしょうが、そこは撮り鉄の性とでも言うべきなのでしょうか、パンツ一丁で寝ていても飛び起きていきなり窓を開け、カメラを構えてしまうのです。

 

とはいえ、夜なので真っ暗で姿は見えないのですが、上游型の汽笛と、貨物の走行音だけが、山あいにこだまします。

機関車のヘッドライトと運転席の灯だけが、暗闇をかすかに照らします。

 

姿はほとんど見えませんが、音鉄でもない私が、音だけで十分に堪能できました。

 

通過するまで音を聞き、寒さのあまり体が冷えきったところで窓を閉め、ぬくぬくとした布団に潜り込みます。

 

そしてようやく気持ちよくウトウトしてきたところにまた汽笛が聞こえるんです。

朝までこれが繰り返されるわけです。

結局、次々と闇の中から聞こえてくる機関車の音に、いつもほとんど眠らずに夜明けを迎えていましたが、あの何とも言えないワクワク感は今も忘れられません。

 

 

執筆者:神田勲
《ぷぅやん》当サイトの管理人。撮り鉄一筋のキャリアは40年以上。2008年より中国に渡り、現役の蒸気機関車を追い続ける。その活動をYouTubeに投稿し続け、チャンネル登録者は約9000人を超えた(2016年5月現在)。その派生形として、当サイトを立ち上げた。

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