【われら TETSU family】 file.6 竹中平蔵(後編)

『鉄道は夢の場所へ行く手段』
独占インタビュー(後編)

 

昔の駅にはドラマや人生があった

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 ――  JR幹部も知らない列車のことをよく覚えていらっしゃいましたね。

一両だけが急行「大和」になって東京に行く寝台車を見に行った時のことを鮮明に覚えているんですが、乗客に中年の女性がいましてね、見送りの人もいて手を振っていたんですが、涙を流していたんですよ。なんかとてもよく覚えているんです。「ああ、この女性は東京に行くんだな……」と。

 

―― ドラマのワンシーンのようですね。

そうなんですよ。今はそれが飛行場に代わっているんですけど、昔の駅にはドラマや人生があったんです。大臣をやっていた時なんですが、稚内に出張があって、稚内に一泊したことがあるんです。その頃は稚内を夜の10時か11時頃に出る札幌行きの「利尻」という夜行列車があったんですが、それが見たくてね。でも単独行動は許されないから、秘書官と警護官を叩き起こして「これから駅へ行くぞ!」とね(笑)。そしたら秘書官たちはブーブー言うわけですよ。「大臣もしょうがないですね……」なんて言いながら一緒に行ったんです。でも「利尻」を見た後は感動して、入場券を買ってたんですよ。「なんだ、お前も鉄ちゃんじゃないか!」と(笑)。鉄道に興味のない人でも、ドラマのような光景に感動したんでしょうね。

 

―― 楽しさは伝わるんですね。

そりゃ列車は楽しいですよ。外が見えるから。でもそれも国民性がありますね。アメリカに初めて留学してアムトラックに乗った時に見たんですがね、できるだけ眩しくないようにしているんですよ。窓は小さいしガラスが透明じゃない。「なんでこんなことするのかな?」と思いました。

 

―― そのあたりは国民性の違いなんでしょうか。

アメリカや西洋の人は目も黒くないし、いつもサングラスをかけなくては目をやられてしまうからという事情もあるでしょうね。でも、逆に彼らが日本にくると、日本の電車は明るすぎて驚くんじゃないでしょうか。それと日本の電車の技術は今、すごいんですよ。たとえば正面から見るとスカートの部分が斜めに切られていることがあるんですけど、あれはどうしてだかわかりますか?

 

―― いやあ、考えたこともありませんでした

カーブが多いところは車体を斜めに傾けるとスピードを落とさなくていいからなんですよ。振り子式という車体傾斜システムなんですが、振り子式で車体を斜めにすると、角の部分を擦ってしまうんですよ。だから今の列車は正面から見ると角を斜めに削ってあるのが多いんです。それとその振り子式ですが、世界で初めてディーゼルカーに振り子式を取り入れたのはどこの会社だか知ってますか? JR四国なんですよ。大したもんですよね。地方の会社にそんなことができるんですから。

世界に誇れる日本の鉄道技術

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―― 日本の鉄道技術は世界に誇れますね。

今回、熊本の地震では残念ながら新幹線が脱線してしまいましたが、東日本大震災の時は30編成近い新幹線が東北地方を走っていたんですよ。ところが一つも脱線しなかった。どうしてかご存知ですか?

 

―― これも何か秘密の技術があったのでしょうか。

地震にはP派とS派というのがあるのですが、我々が感じるのはS派です。P派は先にくる第一波で、P派とS派の間にはタイムラグがあるんですが、現在、そのP派を受けると自動的に列車が停まるシステムがあるんです。P派を受けた列車が自動的にスピードを落として、S派がくるまでの間に200km/h以上で走っていた列車がすべて100km/h以下くらいまでスピードを落としていたから脱線しなったんです。

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――それはすごい技術ですね。

そういう見えないところに日本人の知恵のようなモノがあるんですよ。それとね、昔の奥羽本線(現在の山形新幹線)なんかに乗った時にね、「よくこんなところに鉄道を敷いたな……」と思ったんですよ。明治や大正の時代にあんなところに鉄道を敷いたわけでしょ。それは全部地元の人が「オラが街に鉄道を敷こう」ってことで、地元が主体になってやっていたんですよ。最終的に国が国鉄として買うわけですけど、あの当時の国の発展と鉄道建設に賭ける日本人の熱意みたいなものはすごかったんだなと感じます。アメリカの発展だって鉄道を敷きながら金鉱を掘り当てようということで発展していったんです。やはり鉄道というモノは国の発展、社会の発展とすごく結びついているんですよ。

今後の鉄道は生産と消費

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 ―― 最後に、今後の鉄道にはどんなことを期待しますか。

これからの鉄道は生産の論理と消費の論理の二極化になるでしょうね。大量輸送と時間をかけないでできるだけ早く目的地に到達する鉄道、それとは反対にゆっくりゆっくり時間をかけて、到達する列車の旅を目的とする鉄道。前者がインスタントラーメンだとしたら後者は懐石料理みたいなものですよ。近郊鉄道は大量輸送でできるだけ早く到達することで重要な役割を果たしていくと思います。一方、「一番贅沢な旅は船の旅だ」と言われていますね。あれは飛行機で行けば数時間で行けるところを、わざわざお金をかけて消費をしながら何日もかけていくわけです。鉄道でもそれをやってもらいたい。クルーズトレインのように、鉄道の旅そのものを楽しむのです。生産と消費。その両極端を思いきりやって欲しいですね。

 

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