【われら TETSU family】 file.7 鳥塚亮(後編)

(前編はコチラから)

『夢を背負う人』
いすみ鉄道社長
独占インタビュー(後編)

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──パシナ倶楽部という鉄道のビデオ・DVD会社もされてますよね。

昭和50年頃、高校生の時に8mmフィルムで映画を撮ろうという話になったんですよ。動画だから映したらおもしろくて、ずーっと撮ってられるなと思ったんです。それまでは1コマ、1コマだったから。
小海線とか乗ってね 小淵沢でてから甲斐小泉、甲斐大泉に向けてカーブして行くでしょ。あそこを電車の一番前に座って、カタカタカタ……と、撮るんだけど3分しか撮れないの。あっ終わっちゃったって。そうしたら、25歳の時にビデオができたんですよ。8mmビデオができた時に、120分撮れるという風になって。120分なら連続で撮れるなら「あれ」だろう! 前面展望だろう! ということで始めたんです。

──編集以外の時もずっと見てらっしゃるんですか。

今は見ている時間がなくなっちゃったからね。でも、以前は自分で撮ったやつを急行 礼文(現在の特急スーパー宗谷)というのがあって、稚内から旭川まで4時間かけて行くんです。ちょうど2時間で音威子府(おといねっぷ)に着く。そこでテープ交換ができるんです。そうやって撮ったのを休みの日にビールを飲みながら見るんですよ。旭川越えて士別駅、名寄駅……ガタンゴトン、ガタンゴトン……💤。寝ててパッと目を覚ますと、おお、もう音威子府だってなるんですよ。実際の電車の世界が繰り広げられるんですよ。これがいいんですよ! だからノーカットじゃないといけない。これが私のポリシーなんです。だから合わない人は見なくてもいい。

──そのポリシーがいすみ鉄道の「ここには“何もない”があります」100人いたら100通りの楽しみ方があるというのと同じなんですね。

そうです! 私たちは素材を提供する。列車は時刻どおりに安全正確に走っているだけ。あとはお客さんが勝手に楽しんでいる。昭和のディーゼルカーには味があるなとか、お客さんが勝手に思うことなんですよ。
もちろん裏付けとしての経済学とか心理学とかこれまでに身に付けているものはありますよ。でも、特別なことは何も言っていないんです。楽しむのは自分なんです。私は難しいことは言えないから。わかりやすく、シンプルに考えて言っているだけ。
ローカル線をテレビで流すと視聴率があがる、昔の車両を走らせると喜ぶ人が多い。だったらそれをやればいいんじゃないか!

──そういうふうに届けていただいたものから、すごく夢を与えられてます。

私自身が鉄道に夢を持たせてもらっていたからね、夢を見せられるのであればそうしたいな、と。鉄道会社が夢を見せられるなら、それをやる責任がある。だけど今の鉄道会社はそれをやらないところが多い。そこに我々の活躍する場があるんです! 誰もやらないから先へ進める。
それにね、「アンチ巨人は巨人ファン」ていうのがあると思うんですよ。勤務中に運転士があくびしているとSNSで流したりする人がいるじゃないですか。それに対して、謝ったりするだけではなくて、なぜそうなったかを考えないといけない。興味がない人は運転士なんて見てないですよ。興味があるから見てるし、文句を言いもする。我々はそこを考えないと、その先にある夢を見せるなんてできない。

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鉄道が好きだから

──これからの鉄道会社がやらなければいけないことは、どういうことでしょうか。

もっとシンプルに考えなきゃいけない。人が行きたいな、もっと乗りたいなと思ってもらうそれだけなんですよ。
例えば飛行機に乗ったら「皆様こんにちわ。本日は全日空をご利用頂きありがとうございます。当便の機長は●●~」とか言うじゃないですか。なんで新幹線の運転士は言わないのか、とか。
例えば自由席が満席であふれているけど、グリーン車には空きがあるという時に、なぜ埋めようとしないんだろう。出発してしまったらその席には価値がないのにね。「グリーン車はそういうものではありません」と言ったり、できない理由を探している。
そうじゃないと私は思います。
だからローカル鉄道がローカル鉄道なりに何ができるかをいつも考えています。そりゃ、大きな会社には負けますよ。でも、1日1500人しか乗せてないじゃないかとか、いくらしか売り上げがないじゃないかとかいう話じゃないんですよ。そうじゃなくて、ローカル鉄道がどれだけできることをやったのかを見てほしい。
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鉄道の歴史は「スピードの歴史」なんです。もっと速く、もっと速くなんです。それは技術力だから、文明なんです。でも文明で勝負するんだったらいずれほかの国に抜かれます。私は鉄道が好きだから。好きというのは文明じゃなくて文化なんです。文明というのは速さとか、効率とか、メジャーがあって誰にでもわかるんです。文化と言うのはメジャーがないんです。絵を見ていいなぁと言う人もいれば、全然好きじゃないと言う人もいるのが文化。だからローカル鉄道の良さを全員にわかってもらおうとは思わない。

──大手でも新しい試みをされている会社もありますよね。

それがね、西武の社長に「どうやったらビール列車ができるか」って聞かれたから簡単ですよと。保健所の許可を取る方法を教えたら、すぐに「ヱビスビール特急」を走らせてた。次に「どうして夜行列車なんて走らせるんだ」と言うから、夜行列車でどこかに行くという需要はもうないかもしれないけど、夜行列車の中で一晩過ごすというニーズはありますよと言ったら「ニューレッドアロー」で夜行列車やったしね。

──夜行列車もそうなんですか。

そうですよ。そして今度はレストランですよ。
ウチは「キハ52」で『レストラン キハ』を運行している。それで西武鉄道はふたを開けてみるとヘッドマークが「52」。それで言うに事欠いて「ウチは52席です」って。この前、若林社長に会ったら「いや~、鳥塚さんお世話になりました!」と言うんだけど、何がお世話だよ、パクリじゃないか! って(笑)。
だけどさ、大手だってやろうとすればできるってことだよね。若林社長になんで西武でビール列車とかするかと聞いたら、「社員の意識改革のためだ」と。何もしなくてもウチは「輸送」をしているという、その意識を変えたかった、と。だから危機意識があるんですよ。大事なことですよね。
あとね、私は通勤電車というのは、おしゃれに1杯飲みながら帰宅するというのがあるべき姿だと思うんです。1杯飲んでもう1杯と思ったら駅に着いちゃう。そしたら駅の近くでもう1杯となるじゃないですか。それが地域の活性化にもつながると思うんだよね。だから田舎も含めてどうやって夢を見させるかというのが必要だよね。
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夢を見せ続けないといけない

──社会的に貢献されて、鳥塚社長に何か見返りというのはあるのでしょうか。

まったくないです(笑)。

──求めてもいないんですか。

何がほしいか……う~ん、お金かな。お金があったらキハを買ったり、SLを走らせたり。宝くじが当たったらSLがいすみ鉄道に走りますよ(笑)! 望みはその程度かな。
それよりもみんなが楽しそうにしているのを見るのがいいかな。

──鉄道ファンにとっての夢である「鉄道会社社長」になったことについて、どう思われますか。

公募で鉄道会社の社長になった時からずっと考えているんですが、50歳手前で会社を辞めていろいろ頑張ったけれど、結局ダメだったなぁという存在になってはいけない。若い人たちが「ああなりたい」と思う存在にならないと社会的貢献にならないなと思ってきました。それは経済的な成功も含めてね。
だから自分の財産をすべて失ってしまうことも、あのまま航空会社にいたほうが良かったねと思われることもダメなんですよ。一生懸命に働いている姿、日々の状況も含めてすべてをオープンにして若い人たちが夢を見れる、チャレンジしようと思える見本でいなければと思っています。
夢を追うことは素晴らしいことなんだと「いすみ鉄道」で気づいてもらいたいですね。

──夢を見ることは簡単なのかもしれない。でも、見続けることは大変です。あきらめる理由を探してしまうこともあります。そんな時に「いすみ鉄道」に行きたいなと思いました。そこにいつでも夢を“負い”続ける人がいることに安心感と前を向く力がもらえる気がします。

鳥塚社長、ありがとうございました。

 

いすみ鉄道
http://www.isumirail.co.jp/
パシナ倶楽部
http://www.pacina.co.jp/

 

(取材・文 / 荒木みか )

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