【寝台特急「あけぼの」の思い出③】 打ちのめされた新潟の夜

「寝台特急あけぼの」のすれ違い撮影当日。

あけぼの③-3私と岡安さん、「モウソリスト」の番組撮影クルーは朝6時に上野駅で待ちあわせ、上りあけぼのの回送を見送った後、すぐに車に乗り、首都高から関越道経由で新潟県を目指しました。

 

予想ではあけぼのがすれ違う時間は午前2時00分前後。およそ18時間の余裕があったのですが、明るいうちに現地の下見をし、適切な場所にカメラをセッティングすることまで考えると、決して十分な時間とは言えませんでした。


約5時間かけて新潟に到着。ナビを頼りに東光寺駅まで行ってみると、周辺には田んぼが延々と広がっていました。あけぼの③-4

このあたりですれ違う車窓動画はYouTubeで見たことがありました。我々は13時間後に起こるであろうその瞬間を想像し、カメラのポジションを探しました。

 

その時、番組のディレクターさんが「撮影許可が必要じゃないですか?」と言いだしました。

撮影許可?

今まで考えたこともありませんでした。

撮り鉄にとって、撮影場所は公道や私有地になるケースが多くなります。しかしアマチュアであれば、通常、撮影許可などは考えたことがないと思います。しかし本当は、プロだろうがアマチュアだろうが許可が必要なんですね。

 

アマチュアカメラマンをいちいち咎める人も少ないでしょうが、仮に何ごともなく撮影ができたとしても、それはあくまで土地の権利者様のご好意であって、感謝の気持ちを持って撮影に臨まねばなりません。

ゴミやタバコの吸い殻を捨てたり、撮影に邪魔な植物を切り倒したりなどはもっての外です。

 

少し話が脱線しましたが、一体どこに撮影許可を取ったらいいのかわかりませんでした。

するとディレクターさんが一言。「まずは市役所に電話して土地の所有者を探しましょう。もしかして公道かもしれませんし、公道なら道路使用許可を取ればいいんじゃないかと思います」。

なるほど。

テレビの取材許可はそうやって取るんですね。

 

私はすぐに三条市の市役所の電話番号を調べ、問い合わせてみました。

あけぼの③-6土木担当の部署の方が出たので撮影の意図と事情を説明し、撮影許可はどうしたら取れるか聞くと、担当の人も初めてこのような問い合わせの電話を受けたらしく困った様子で「おそらく……公道部分であれば撮影許可は必要ないと思います」との回答でした。

あまり大事にしても仕方ないので、撮影許可はこのくらいにして、我々はもう一つのポイントを探すことにしました。何しろ列車同士のすれ違いというのは、ダイヤがほんの数秒狂っただけで大きく変わってきます。

撮影場所が一カ所だけでは心配です。そこで岡安さんにサブカメラを渡して少し離れた違う場所で撮ってもらうことにしました。

 

もう一カ所、我々が目星をつけたのは東光寺の田んぼから2㎞ほど北に行った三条駅の駅前にあるマンションの屋上でした。

あけぼの③-5信越本線は東光寺〜三条駅間は直線が続くのですが、三条駅を過ぎるとすぐに右に急カーブします。

駅前のマンションの屋上からは新潟方向、長岡方向とも見通せるであろうことが想像できました。

ここにカメラを配置すれば東光寺駅から三条駅を越えて、場合によっては東三条駅の手前までカバーできるはずです。

距離にして5㎞以上。

これだけの範囲をカバーしていれば、多少時間がズレたとしてもどこかで撮れるでしょう。

マンションの管理会社に電話をして、事情をお話すると、運よく場所をお借りできることになりました。

 

岡安さんに三条駅前のマンションの屋上を託した私は、東光寺駅の周辺を再度念入りに調査しました。

すると迷いが出てきました。

線路の近くで撮るか、それとも離れたところから撮るかということです。

こういう時、自分に体が二つあって、どちらも撮れたらいいのにと思うことがしばしばあります。

離れていれば、編成の全体を見渡せるので、すれ違った位置が多少悪くとも両方の編成を見ることができます。ただし、あまり両サイドの見通しは効かないので、列車が突然現われて慌ててしまうことがあります。

反対に線路に近ければ見通しは効くので、かなり遠くから列車が来ることを確認できます。

ただし、すれ違う位置によっては、奥側の線路を通過する列車がまったく見えなくなる可能性があります。

 

撮り鉄の専門用語で言うと「被り」というやつです。

それでもチャンスは一度しかありません。

迷いに迷いましたが、決断はしなくてはなりません。

私は見通しを優先し、線路に近い位置で構えることにしました。

 

ところが悪いことに雨脚はどんどん強まってきます。

かなりの降雨量です。

気温がそれほど低くないから雪にならないだけで、あと一カ月もしたら、この雨はすべて雪に変わるのでしょう。

日本海側の気候の厳しさをまざまざと感じさせられました。

 

ベストな条件とは言えない中、刻一刻と時間が迫ってくると、次第に緊張感が高まってきました。

日本の鉄道は世界的に見ても時間は正確で、遅れることはあっても絶対に時間前にくることはありません。

海外の鉄道の中には時間がいいかげんで、遅れるならまだしも、定刻の出発時間よりも早く、フライングして出発したりすることもあります。

日本では絶対にありえないことです。

ですので、時間までは絶対に来ないから、ゆっくりリラックスしていればいいのですが、こればかりは何度経験しても緊張が取れません。

まして今回はテレビカメラも回っているので、いつもの100倍くらい緊張しました。

 

カメラを持ってウロウロ、右を見たり左を見たり、ほとんど挙動不審者です。

カメラを持つ手にも汗が染みだしてくる上、雨がカメラに当たるので何度もタオルで水をふき取りました。

 

1時58分。いきなりその時は来ました。線路の左側、下り方向に灯が見えたのです。

あけぼの③-10

 

東光寺駅のずっと先のほうにチラチラと灯が見えました。

「来た!」

あけぼの③-1私が声を上げると、撮影クルーにも緊張が走ります。

車のライトの見間違いの可能性もありましたが、目をこらすと間違いなく牽引するEF81のヘッドライトです。

なかなか近づいてはきませんが、反対側の上りを見てもまったく灯が見えません。

私は一旦、下りの列車にターゲットを絞ることにしました。EF81の力強いモーター音が近づいてきます。

ガーーーー、ダダダダダダ、6輪の車軸がギャップを越えるとき、独特のリズムを奏でます。

 

上りは来ているのだろうか?

 

背後が気にはなるものの、カメラを下り列車に向けているため、確認をすることはできません。

頼む、来てくれ……。

祈るような気持ちで私はカメラをパン(被写体を追いながらカメラを振ること)しました。

 

ダダダダダダ、ガタン…ガタン、ガタン……ガタン、ガタン……ガタン、ガタン……。

 

列車は目の前を過ぎ去って行きました。

ところが上り方向は列車の影はおろか、ヘッドライトすら見えません。

あけぼの③-2

遠ざかる列車を呆然と見ながら、心の中では三条駅前ですれ違うことを神にすがるような気持ちで祈りました。(岡安さん。頼む。何とか成功させてくれ……)。

あけぼの③-11下りのあけぼのが通過して10分が過ぎた頃、ようやく上りがやってきました。

ここまで遅いのは、おそらく上り列車に遅延が生じていたのでしょう。しかし、もしかしたら岡安さんのいたあたりではちょうどすれ違っていたかもしれません。私は祈るような気持ちで岡安さんに電話をかけました。

「岡安さん!どうでしたか!?」。

答えは残念なものでした。

三条駅前のマンションでも下り列車が早く来すぎて、上りとはかすりもしなかったそうです。

あけぼの③-7

完全に我々の作戦は失敗に終わりました。

我々の失敗はいいとして、問題は番組です。ディレクターさんにもう一日、猶予はいただけないか聞いたのですが、放送日の関係でそれは無理とのことでした。

番組が成立しないんじゃないかと心配になりましたが、「失敗も一つのドラマなので、番組はこれで成立させますよ」と慰めにも近い、あたたかいお言葉をいただきました。

 

かくしてバラエティー番組をも巻き込んだ壮大な妄想は見事に失敗に終わりました。

あけぼの③-8妄想は妄想のままで終わってしまったのです。

正直、今でも悔いが残っています。

ただ、放送をご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、番組そのものはしっかりと話が完結していたので、プロの編集はすごいと感心してしまいました。

あけぼの③-9そんなわけで、私の初めてのテレビ出演はみっともない終わり方になってしまいましたが、多くのことを学ぶことができました。話を持ってきてくれた岡安さんや撮影クルーのみなさんには感謝の言葉しかありません。

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